ロマンシングサガ3 カタリナ編 第一章3

「・・・メッサーナの地・・・か。久しぶりね」

 

 客船を降りて港にたったカタリナは、丘陵状に並ぶ町並みの先にそびえる荘厳なるメッサーナ王宮を望みながらつぶやいた。

 世界最大の大国、メッサーナ。

 世界地図のほぼ中心に位置し、各地をつなぐ四つの内海のうち三海に面したマイカン半島の先端近くにあるこのピドナを首都とし、現在地図に記載されている範囲の実に三割以上もの面積を支配しているという、文字通りの世界最大国家だ。

このピドナの東にロアーヌ、北にツヴァイク公国や聖都ランス、南はリブロフや熱帯のジャングルに点在する温海諸国、西には商業都市ウィルミントンや漁業都市バンガードと、各地を結ぶ流通の拠点としても非常に重要な位置を占める。

 

「とにかく、ここでもう一度情報を集めないと・・・」

 

 折角の世界中心地ではあるが、のんびり観光などしている余裕は当然なく、気を引き締めたカタリナは情報を得られる場所を求めて町へと歩き出した。

 流石に世界中心都市というだけあって、港がとりあえずだだっ広い。

 カタリナが以前最後にここに来たのは、死蝕の前の話である。故にほとんど景色などは記憶にも無く、手探り状態でゆっくり町へと進んでいった。

町に入ればこれまただだっ広いメインストリートと、その脇に並ぶ幾多の商店。そしてそれらを埋める尋常で無い人波。それは正に、世界の中心都市の名にふさわしい繁栄と、混沌ぶりだった。その賑やかさといったら、ロアーヌの誇る貿易都市ミュルスのメインストリートすら霞んで見えるほどである。

 

(・・・賑やかだこと。とても十五年に及ぶ内乱の真っ最中とは思えないわね・・・)

 

 このような人ごみがあまり好きではないカタリナは、とりあえず道の脇に植えられている木の木陰に避難して町並みを観察していた。

 このメインストリートを過ぎ王宮に近づくにつれて、このピドナという都市は世界中心都市という華やかな顔とは別の、大国メッサーナの裏の顔を露呈し始める。

 その内情は、今現在も主無きままに十五年目を数えるメッサーナ王国の内乱の歴史であった。

 現在まででメッサーナの最後の王であった故アルバート王は、死蝕の僅か一年後に崩御した。そして後継に血縁ではなく養子制度を採用しているこの国でアルバート王が崩御までに後継を見出さなかったことが、この国の長き内乱の歴史を作り上げてしまったのだった。

 それ以後から今までの間に幾度もの血なまぐさい戦がこの周辺の地で繰り返され、つい五年前になって情勢が大きく変わったのだという。

 五年前、この地に台頭していた古くからの名門であるクラウディウス家が当主の突然の他界によって没落し、それに変わって今はトリオール海を挟んでピドナの南にあるリブロフの町からやってきたルートヴィッヒという名の男が、実質的にピドナを掌握しているらしい。

 それまで王宮の近衛軍隊長という、王位に一番近いとされる立場にあった故クレメンス=クラウディウスを退けてその座に収まった、今一番メッサーナ王位に近い男である。

 時の情勢ではクレメンスの死亡に関しては暗殺説も実しやかに囁かれており、その内情は暗いふちに沈みきっている。

 

「・・・こうして華やかな町並みをみていると、とてもそんな血生臭い空気は感じさせないわね・・・」

 

 ぶつくさと一人つぶやきながら、カタリナは街中を歩いていた。少し道を曲がれば、昼間だというのに酒場が営業をしている。先日のトーマスの手腕に習ってとにかくその辺りから当たろうと、カタリナは意気揚々と酒場に繰り出した。

 

 

 

「ありがとう御座いましたー」

 

 マスターに礼を言われながら酒場の扉をくぐって出てきた頃には、陽はすっかり傾いて空は赤く染め上げられていた。

 

「・・・少し酔っ払ってしまったわ」

 

 噂話は大量に聞けたが、残念ながらマスカレイドに直結するような、ミュルスで目撃された男の行方的な話は聞くことが出来なかった。

 だが、その代わりに興味深い話を聞くことが出来た。マスカレイドと同じく、聖王遺物に関する話である。

 少しの間木陰で酔い覚ましに休んだカタリナは、メインストリートの王宮方面に向き直り、その先にある商業地区を目指して歩き出した。

 歩くにつれて町並みは華やかな風景から一転して事務的な並びを呈し始め、道を歩く通行人も観光客や地元の買い物客ではなく、商業地区にふさわしく忙しなく動くビジネスマンたちがメインだ。

 カタリナはそんな人波をするりと抜けて、道なりに点在する看板だけを頼りに話しに聞いた場所へと歩き続けた。

 二度三度路地を右へ左へ、そして階段を下って上ってようやくたどり着いたのは、人通りも疎らな路地裏にある、やけに立派な外装の工房だった。

 

「・・・ここね・・・レオナルド工房」

 

 開きっぱなしになっている入り口から中を覗き込むが、一階フロアには人の気配は無い。外装に負けず劣らず立派なカウンターがあり、広く来客用スペースも設けてあるが、よくよく見ればカウンターの奥には打ち捨てられたような木箱がゴロゴロと転がっている。

 

「・・・営業中・・・よね?」

 

 思わず表の看板がオープンを指し示していることを確認してしまったカタリナは、おずおずと工房の中へと足を踏み入れた。

 やはり外から覗いたとおり、中に人影は無く、一階のフロアは閑散としていた。

 

「・・・・・・」

 

 フロアを一通り歩き回ったがやはり人影らしいものは何もない。空虚な足音だけが広いフロア内に響き渡るのみだ。

 

(足音が下にも響く・・・。地下があるみたいね)

 

 とにかく今のところマスカレイドに関係しそうな話はこのレオナルド工房に関することしか聞けなかったので、カタリナとしてもそう簡単に諦めるわけには行かないのだ。足音から地下に空間があることを察知していたカタリナは、程なくしてフロア内に階段を発見すると、ゆっくりと下へと降りはじめた。

 

 

やけに重苦しい鉄製の扉を開けると、さらに続く階段の下から息苦しくなるような熱気と共に、鉄を打つ甲高い金属音が響き渡ってきた。

 どうやら職人が製作をしている真っ最中のようだ。作業中に入るのも憚られたが、しかし人が上にいないのだから仕方が無い。カタリナはゆっくりと階段を下り、作業所へと足を踏み入れた。

 

「・・・また駄目だっ!!」

 

 階段を下りきったところで、奥から半分悲鳴のような女性の叫びが聞こえてくる。

 

「・・・?」

 

 何事かと其方を振り向くと、それまで作業中だったらしい大柄の女性がずかずかとこちらへ歩み寄ってくる。

 その女性はカタリナを視認すると怪訝そうに眉をひそめたが、しかし次の瞬間にはどうでもいいというような表情でカタリナの前に立った。カタリナも別段背が低いわけではなくむしろ女性としては高い部類に入るが、この女性はそのカタリナすら通常サイズに見えるほど大柄であった。

服の上からでも一見して分かるとても女性とは思えないほどの立派な筋肉、意志の強そうな瞳。この工房の中核を担う人物だろうか。

 

「今日は店じまいだよっ!」

 

 しかし観察するカタリナには目もくれず、半ばはき捨てるようにそういった女性はつかつかと階段を上っていってしまった。

 あっけに取られたカタリナは、とりあえずその女性を見送った後に工房の奥へとさらに足を踏み入れた。

 そこには、先ほどの女性が鍛えていたらしい剣を見つめてため息をつく、まだ鍛冶屋として修行中かと思われる青年がいた。

 

「・・・ここの工房の方かしら?何かいい武器か防具はないかしら」

 

 近づきながら旅人としてそれっぽい言葉を選んでカタリナが話しかけると、青年はそこで初めて気がついたようにカタリナに目を向け、ぺこりと頭を下げた。

 

「はい・・・えっと、お客様ですか・・・?・・・すみません・・・せっかくいらっしゃって頂いたところ申し訳ないのですが・・・あいにく今、この工房には販売できるものは何一つないんです・・・」

 

 そういって青年はまた視線を落とした。

 そんな青年の様子を尻目に、工房内部を見渡す。その広さはロアーヌ宮廷の謁見の間にも及ばんとするくらいのもので、揃った設備もカタリナは目にもした事が無いものばかりだった。武具を扱う工房はロアーヌにもミュルスにもあったが、これだけの規模を有するものをカタリナは知らない。間違いなく、ここは世界有数の規模を誇る工房だろう。

 

「販売できるものが無い・・・?妙ね、こんなに広い工房なのに。設備もご立派だし、今の女性も熟練の方のようだけれど・・・。それに、他の職人さんは・・・?」

 

 うつむく青年を見ながら、一通り工房内を見回したカタリナが話しかけた。

 

「・・・さっきの女性は、ノーラさんです。ここの・・・親方を今はしています。僕はケーンといいます。ここに入ってまだ何年も経たない新人です・・・職人は、他にはいません」

「他にはいない・・・?」

 

 それを聞いたカタリナが怪訝な顔をする。この工房の広さは伊達じゃない。それこそ数十人単位の職人が作業をしていてもおかしくなさそうなほどの広さだ。だというのに職人が二人だけというのは明らかにおかしい。

 

「・・・ここは、五年前までは世界一の工房だったんです。何十人もの才気ある職人が世界中から集い、日々ここで素晴らしい作品を作っていました。ですが・・・五年前の内乱の際にこの工房のシンボルであった聖王の槍が盗まれてから・・・全てが変わってしまいました」

 

 カタリナの表情から言いたいことを読み取ったのか、ケーンと名乗った青年はつぶやくように口を開きながら、工房の奥の壁に目を向けた。

 つられてカタリナが目を向けると、そこには何かが設置されていたらしい跡の残る立派な壁細工が施されていた。

 

「丁度、あそこに聖王の槍が飾られていました・・・。しかし槍は盗まれ、当時親方であったノーラさんのお父上が、聖王の槍を取り返すために単身旅に出たんです・・・」

 

 そこまでいうと、ケーンは再び口をつぐんだ。その様子を見ながら、カタリナが口を開いた。

 

「・・・そして二年前に帰ってきた親方さんが、帰ってきてから僅か数日後に港で・・・遺体で発見された・・・のね」

 

 丁度ついさっき酒場で聞いた話を思い出して、ケーンの言葉の後を続ける。ケーンはそれを聞いても特に驚いた様子もなく、力なく頷いた。ピドナでは割りと周知の話なのだろう。

 

「その通りです・・・。親方は三年の旅の果てに聖王の槍がこのピドナにあるらしいという情報をつかんだそうです・・・しかし、取り戻しに行くと言って出て行った親方は・・・。それからここにいた職人は次々にここを去り、今では僕とノーラさんの二人だけになってしまいました」

 

 そう呟くケーンの言葉には力が無いが、しかしその瞳はまだ諦めていないことが見て取れる、鋭い眼光が辛うじて宿っていた。

 

「そう・・・。実は・・・」

 

 黙りこくってしまったケーンを見ながらようやく本題を切り出そうとカタリナが口を開いたその時、バンッという音と共に後方の階段の扉が開かれ、先ほどの女性、ノーラが勢いよく駆け下りてきた。

 

「ケーン、あたしやっぱり旅に出るよっ!父さんの仇をとって、槍も取り戻すんだっ!」

「!・・・ノーラさん、駄目ですよっ!危険すぎます!」

 

 足早にこちらに近づきながらがなり立てるように言うノーラ。ケーンが呆気にとられながらもあわてて抗議の声を上げるが、ノーラはそんなものは聞く耳持たないようだ。

 言うが早いか早速準備をし始めるノーラの傍によって止めようとするケーンだが、しかしノーラの動きは止まらなかった。

 

「いいや、もう決めた。このままじゃどの道レオナルド工房はおしまいだよ。だったらなんとしても、聖王の槍を取り戻して名声を復活させなきゃいけないっ」

 

 ケーンが止めるのも聞かずにノーラはてきぱきと準備をしながら、偶然、ずっと視線を自分に向けているカタリナと目が合った。

 

「?・・・あぁ、さっきの客かい。今日はもう終りだっていっただろう?まだ何かあんのかい?」

 

 一端手を止めて、カタリナに向き直るノーラ。それを見ながらカタリナは、少し目を細めながら口を開いた。

 

「ええ、大事な用があってここにきたの・・・改めてご挨拶させてもらうわ、マエストロ・ノーラ。私はロアーヌの騎士、カタリナ=ラウラン。この地に・・・ロアーヌより盗まれた聖王遺物、聖剣マスカレイドを求めてやってきたものです」

 

 盗まれた聖王遺物、という単語に敏感に反応して眉を顰めるノーラ。カタリナはそれを確認すると、さらに続けた。

 

「つい数日前・・・私は何者かに聖剣マスカレイドを奪われてしまいました。そして・・・その奪った人物がこのピドナに向かったという情報を聞きつけて、ここまでやってきたのです。手がかりはこの町に着てから途絶えてしまったけれど、町でここの工房の、聖王の槍の一件を聞き及び、こうして馳せ参じました」

 

 話を聞きながらさらに怪訝な表情を強めたノーラは、正面からカタリナに向き合うとゆっくり口を開いた。

 

「・・・なるほどね・・・それで?確かに聞いた限りじゃあ同じような境遇みたいだけど・・・残念ながらあたしたちは聖王の槍だけで手一杯。あんたのマスカレイドとやらなんて話にも聞いたことは無いから、何も手助けは出来ないと思うけど?」

 

 生来の性格なのか、ぶっきらぼうに言い放つノーラ。しかしカタリナは引き下がらなかった。

 

「そうですね。しかしながら、目指すものは私も貴方も同じく、盗み出された聖王遺物。これは私の推測でしかないけれど・・・貴方の聖王の槍も私のマスカレイドも、現状このピドナで消息を絶っている。だから・・・とにかくその二つの行方を追っていけば・・・あるいは双方どちらにも、たどり着く気がするのです。可能性として、ありえなくはないと思いませんか?」

 

 腕を組んでノーラを見据えながら言葉を続けるカタリナ。それに対して動きを止めて話を聞いていたノーラは、まだ不信感こそ拭いきれない様子だが、先ほどよりは若干トーンを落とした声でカタリナに話しかけた。

 

「・・・つまり、協力しよう・・・ってこと?」

「その通りです。私とて、なんとしてもマスカレイドを取り戻さなければならない身の上。だから、できれば協力して捜索に当たりたい。とはいえ私はここの町に関しては全くの部外者・・・何も知らないに等しいわ。だから、ここの住人であり、同じ目的を持つ貴方達に協力を仰ぎたいのです。情報を共有させてもらう代わりに、実際の捜索は私がメインで請け負います。貴方のお父上の件を見てもどうやら危険が伴うようですから、武に通じる私が行ったほうがいいでしょうし」

 

 そこまで喋り、カタリナは黙して返答を待った。それを察知したのかノーラは口を開きかけたが、思い直して頭を掻くと、カタリナに背を向ける。

 

「上に来て。そこで話をしよう」

 

 荷造り途中のものもそのままに、ノーラはつかつかと階段に向かって歩き出した。あわててその背中を追うケーンの後に続いて、カタリナも階段へと向かって歩き出した。

 

「あぁ、それと」

 

 階段を登り始めたところで、ノーラがこちらに振り向いた。

 

「かしこまった喋り方ってあたし、苦手なんだ。だからあんたも、口調崩してくれて構わないよ」

 

 それだけ言うと、再びノーラは階段を登り始めた。きょとんとしているカタリナだったが、ケーンがそっと近づいてきてこう告げた。

 

「ああいうときのノーラさんは、ちょっとぶっきらぼうみたいですけど、しっかり話をきいてくれますよ」

「そう・・・ぶっきらぼう、ね・・・」

 

 内心で少々はにかみながら、カタリナはノーラに続いて階段を上っていった。

 

 

 

「・・・なるほどね、術師に盗まれたわけか・・・。忠誠心が仇になったっていうのは・・・なんだが騎士らしい話だね」

 

 一階フロアに場所を移した一同は、テーブルを囲んで紅茶を啜りながら情報の公開を互いに行っていた。

 

「とんでもないわ・・・。君主とその偽者すら見抜けなかった私の忠誠など、ミカエル様も望んでいらっしゃらないはず。だからこそ・・・私はマスカレイドを取り戻し、汚名を返上しなければならないの」

 

 自らがマスカレイドを盗まれた経緯を掻い摘んで話したカタリナは、ノーラの感想に苦笑気味に答えた。もちろん、流石に抱きすくめられて気が動転してしまったなどのくだりは言っていない。

外は既に夜のとばりが降りていたが、すっかり打ち解けてくれたノーラの計らいで今夜はこのレオナルド工房に泊めてもらうことになっているので、別段気にする様子もなくカタリナは話を続けた。

 

「明くる日の朝にはロアーヌを出たのだけれど、その後に数日滞在したミュルスで得た情報は、既にその術師はピドナ行きの船に乗ったというものだったわ」

 

 そこまでいうとカタリナは渇いた口の中を紅茶で潤し、考え込んだ様子のノーラを伺った。

 やがてノーラは癖なのか、再度頭を掻いた後に口を開く。

 

「元々この地にあった聖王遺物である聖王の槍が五年前の内乱の時に盗まれ・・・つい先日ロアーヌの聖王遺物であるマスカレイドが奪われた・・・か。聖王遺物は他にもいくつか存在しているけど、その他の聖王遺物もやはりいくつかは盗まれたりしているのかな・・・」

 

 夕食代わりにソテーしたソーセージをつまみながら、ノーラがカタリナとケーンを伺う。しかし、両者共に首を横に振るだけだった。

 

「申し訳ないけれど、そのあたりは私も全く分からないわ・・・。そもそもマスカレイド自体、私は聖王遺物というよりはロアーヌ国宝としてしか見ていなかったから・・・。聖王の槍ですら、今日初めて安置場所がここであったことを知ったくらいだし」

 

 勧められて一緒にソーセージをつまみながら、カタリナが首をもたげる。テーブルを挟んだノーラとカタリナの間に座るケーンも、同じような反応だ。

 

「僕も全く駄目ですね・・・。ただ、聖王遺物のいくつかは聖都ランスにある聖王廟に保管されている、という話は聞いたことがあります。あそこならば聖王様所縁の一族の方も住んでいらっしゃいますし、何か話くらいは聞けるかもしれませんね」

「お、ケーンのくせになかなか鋭い意見じゃないか。確かにランスなら、そういう話は聞けるかもしれないね・・・。とはいえあたし達の探し物がピドナにあるということが分かっている以上、あんまり有益な情報は期待出来ないかもね・・・」

 

 うーん、と悩むノーラに、カタリナはパンをちぎりながら尋ねた。

 

「そういえば・・・貴方のお父上はピドナの何処に聖王の槍があるのかは、突き止めていたの?」

「それが・・・分からないんだよ。父さんは帰ってくるなり、あたしたちにはロクに話もしないで出て行ってしまったから・・・」

 

 そういいながらノーラはズボンのポケットをまさぐり、何かを取り出す。

 

「父さんが残してくれた手がかりらしい手がかりっていえば・・・これくらいかな」

 

 そういってノーラがカタリナの目の前にぶら下げたのは、なにやら不思議な形をしたアクセサリーだった。

 

「これはね、赤珊瑚製のピアスさ・・・。これと、あとは出て行く前に父さんが言っていたそれらしい単語っていえば・・・ジャッカル、っていう名前くらいかな・・・」

「ジャッカル・・・」

 

 口にしてはみたものの、やはりカタリナには見当もつかない。ことロアーヌのことならば一夜を通してでも語ることの出来るカタリナだが、諸外国のことに関しては疎いのだった。

 

「・・・まぁ兎に角、他の聖王遺物に関してと、あとはその赤珊瑚のピアス、そしてジャッカル・・・。この辺から徹底的に調べていきましょう。必要であれば、私が船でランスまでだっていくわ」

 

 一通り皿の上のものを平らげると、カタリナは礼を言いながらそう締めくくった。

 

「そうだね・・・。とにかく動かないと始まらないからね。頑張ろう」

 

 カタリナの言葉に頷くノーラ。こうして、ピドナの第一日目は過ぎていった。

 

 

 

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第一章・目次