ロマンシングサガ3 カタリナ編 序章2

 まずカタリナはモニカの替え玉を用意することにした。

 とはいえ残念ながら、この城の中にはミカエルの影はいてもモニカの影はいない。なので、仕方なく城仕えの侍女の中から金髪ロングヘアのものをピックアップしてモニカの寝巻きを着せ、モニカのベッドに突っ込むことにした。

 

「カ、カタリナ様っ!こんな恐れ多いこと、私には・・・っ!」

「いいから黙って入りなさい。いい?食事とかは可能な限り運んできてあげるから、しばらく本でも読んでなさいな。誰か近づいてきたら頭まで布団をかぶって、決して声を出さないようにね?わかった?」

「・・・はぃ・・・」

 

 大人しく頷く侍女にうんうんと満足げに頷いたカタリナは、一秒でも惜しいと言いたげな素振りですぐに部屋を後にした。

 部屋を出た所で大臣に出くわしたが、どうやら今は様子見に着ただけらしい。しつこくモニカの様子を聞いてくる大臣に事の確信を感じながらも適当にはぐらかしたカタリナは、去り際に大臣のすっかり干上がった頭にむかって中指を立てた。まごう事なきロアーヌ貴族仕込みの挑発サインである。

 あとは事が起こった際に何処まで自分を自由な状態に出来るか、を考えなければならない。

 

(まず間違いなく捕まる。・・・だとしたら、自室内軟禁・・・は無いわね。王侯貴族の部屋には隠し通路があることくらい、どれだけ馬鹿でも男爵なら先刻承知でしょうし。だとしたら・・・順当なのはやっぱり地下牢かしら)

 

 地下牢に下りると、入り口に控えている牢番の兵士はすっかり寝入っていた。普段ならばたたき起こして説教確定だが、今夜ばかりは好都合だ。簡素な机の引き出しから牢屋のマスターキーを取り出すと、牢屋を一つ一つ物色し始めた。

 とはいえ、ロアーヌ城の地下牢は非常に狭い。せいぜいが三部屋、四部屋だ。国という規模の牢屋にしては機能出来ないほどの狭さではあるが、ことさらこれで問題はない。

 ロアーヌ領地内の犯罪者の大抵は即座に友好条約を結ぶ北方のツヴァイク公国へと送られ、そこで領主の趣味の闘技場で使役されると聞いたことがある。犯罪者の処理ほど面倒な業務もなかなか無いだろうから、これはこれでいい関係だといえるだろう。

 

(・・・お、ここが空いているのね。だとしたら私が入れられるとすれば、ここね)

 

 一番奥の牢が唯一の空き牢であることを確認したカタリナは、牢内の石畳の僅かな隙間にそっと鍵を忍ばせた。

 

(あとは・・・これね。捕まれば手持ちの武器も没収されるだろうから、これだけは絶対に手元に帰ってくるようにしなければ・・・)

 

 懐に常に忍ばせているその小剣を握り締め、カタリナはいそいそと周囲を見渡した。すぐ近くにどこか隠しておける場所があればそれにこしたことはないのだが。

 きょろきょろしながら再び地下牢の入り口付近まで戻ってきたカタリナは、相変わらず寝入っている牢番の脇に壺が置かれているのを見つけた。どうやら今現在捕らえている囚人達の私物をまとめて突っ込んであるもののようだ。

 

(これなら下の方に入れておけば、見つかることはなさそうね。よし、ここに入れてしまおう・・・)

 

 早速壺の中身をかき分けて見えないように小剣をしまうと、カタリナはそっと地下牢を後にした。

 階段を上って一階へと戻ると、外はいつの間にやら豪雨に見舞われており、打ちつけるような雨音がここまで響いていた。

 

(・・・モニカ様、どうかご無事でミカエル様の元へ・・・)

 

 窓の外を眺めて祈るようなしぐさをしたカタリナは、再びモニカの部屋へと戻っていった。

 

 

 あくる日の夕方、後にゴドウィンの変と呼ばれるその事変は、ロアーヌ城内で本幕を開けた。

 バンッ、と勢い良くモニカの部屋の扉が開かれ、大臣と数人の兵士が意気揚々と室内に踏み込んでくる。昨日と同じ椅子に静かに座って本を読んでいたカタリナは、さも驚いたように立ち上がり、彼らに向き合った。

 

「何事ですかっ!ここをミカエル候の妹君、モニカ様のお部屋と知っての無礼ならば許しませんよ!?」

「大人しくしてもらおうか、カタリナ。この城は我々が完全に掌握している。下手に動けば命が無いだけだぞ?・・・お前に用は無いのだ。まずはモニカの身柄を押さえさせてもらう」

 

 開口一番に相手を制しようとカタリナが怒鳴ると、兵士こそ若干ひるんだものの、その後ろに控えていた大臣は余裕の笑みを崩さぬままに返してきた。

 

「どういうこと・・・?このようなことをミカエル様が知れば、あなた達タダではすまないわよ。大臣風情が反乱でもするつもり?」

 

 さすがにこの狸だけは威圧ではどうにかすることは出来ないらしい。年の功というやつだろうか。

 

「ミカエル・・・?ふん、あのような若造に何が出来る。若い割に多少頭が回るからといって今は名君気取りだろうが、すぐにボロがでるさ。だから今のうちにそれを防いでやろうというのだ。かといって私が取って代わるわけではないぞ?これからはゴドウィン様が先代の遺志を継いでロアーヌ候となられ、我々を導いてくださる」

 

 ミカエルの事を若造、と呼称されたことに一瞬脳が煮えくり返りそうになったが、そこは勤めて押さえる。とにかくこれで、やはり黒幕がゴドウィンであることが分かった。

 

「・・・ゴドウィン?いくら先代の従兄弟にあたるとはいえ、あのような矮小な男にロアーヌを治めることが出来るわけがないでしょう。大臣、人選を誤ったわね。・・・そもそもこの程度の人数でここに来るとは、このカタリナもなめられたものだわ。覚悟なさい!」

 

 そういいながら腰に差してある小剣を抜き放つ。

 途端に、大臣の周囲に控えていた数人の兵士は自らの剣の柄を握りながらも、皆同じく引け腰になってしまった。

 カタリナは何も、単に身の回りの世話をするための侍女としてモニカに仕えているわけではない。自身もロアーヌ貴族の身分でありながら同時にロアーヌ騎士の一人でもあり、その中でも群を抜いた実力と性格の実直さを先代のロアーヌ候フランツに見いだされて今の役職についているのだ。

 そのカタリナが剣を抜いたことでいささか大臣もあせりを見せたが、兵士をたてにするように立ち位置を変えて懲りずに口を開いた。

 

「動くなよカタリナっ!それ以上動けばモニカの命は無いと思え!」

 

 声と同時に、モニカの寝室のほうに兵士が一歩歩み出る。流石にここでは位置が悪い。あの兵士を打ち倒す前に兵士はモニカのベッドへと到達してしまうだろう。

 

「・・・・わかったわ。大人しくしましょう。ただし・・・モニカ様には指一本でも触れることは許さない。それ以上ご寝室へと近づくことも許さない。もしそれが破られようものならば・・・地の果てまでも追いかけて、私はお前を必ず殺す」

 

 そういってカタリナは大人しく小剣をしまった。しかし眼光は鋭く大臣へと向けたままだ。その瞳には紛れもない殺意と、自らの言葉を事実足らしめるだけの自信をもって。

 

「い・・・いいだろう。この部屋を見張っておきさえすればいいのだ・・・。・・・お、おい、カタリナから武器を取り上げろ!」

 

 流石にカタリナの眼力に怖気づいたのか、大臣はじりじりと後ずさりながら兵士の一人にカタリナの身体検査を命じた。

 

「は、はい・・・」

 

 同じく怖気づいていた兵士の一人が恐る恐るカタリナへと近づいてくる。しかしカタリナは微動だにせず、ただ大臣のみを睨みつけている。大臣が冷や汗を掻いている一方で視線が自分に向けられていないことに多少安堵した兵士は、カタリナの腰に掛かっている小剣へと手を回した。

 

「・・・・・・っ!?ちょっと、どこさわっているの!?」

「す、すみませんっっ!」

 

 尻を撫でられたカタリナが兵士を一喝する。まるっきり立場が逆になってしまっているが、それを指摘できるほどの度胸のあるものはこの場にはいなかった。

 

「・・・と、とにかくお前にはしばらく地下牢に入ってもらおう。処遇は追ってゴドウィン様がお決めになるだろうよ。・・・ひひ、お前は以前から男爵様のお気に入りだったからな。ひょっとしたら側室も夢ではないかも知れんぞ・・・?」

 

 大臣の言葉に、射殺さんばかりの勢いでカタリナが睨みつける。しかし大臣は下品に笑みを浮かべたまま、その場を後にした。そうして彼女は予定通り、地下牢の奥の部屋へと運ばれていった。

 

 

 ぱらぱらと、薄い草鞋の座敷の上に数枚のカードが舞う。地下牢というのは思いのほか暖かいものなんだなとのん気に考えながら、カタリナは暇つぶし用に持ってきた占星術タロットを操っていた。

 地下牢に入ってから、どれほどの時間が経過しただろうか。外の様子を窺えないので正確な時間や経過日数などは分からず、体内時計に頼るほかなかった。

 そしてカタリナは、今は待つことが肝要と己に言い聞かせつつも、しかしこの状況に早々うんざりしていた。

 

(そりゃ楽しいわけがないだろうとは思っていたけれど・・・こうも退屈だと困っちゃうわね・・・)

 

 壁に寄りかかりながら、ひたすらタロットを弄る。本来ならばこれすら認められないところであろうが、ここまでカタリナを連れてきた兵士達の誰も、彼女が胸部と服の間に隠していたこのタロットを見つけ出そうとするものはいなかった。そして地下牢に入ってからは、相変わらず居眠りばかりの牢番なので見咎められることも皆無なのだ。

 今回の事件に片がついたらこの牢番にはきつく説教をしてやろうと心に誓いつつ、城勤めの侍女が怯えたような心配そうな顔をしながら運んできた何度目かの食事を平らげた後、あくびをかみ殺しながら再びタロットに耽っていた。

 

(鍵はもう回収したからいつでも出られるわけなのだけれど・・・やはり私が行動を起こすのはミカエル様の軍が城下町にたどり着いてからね・・・。それまでは息を潜めていなければ・・・)

 

 おそらく、それは時間の問題であろうと思われた。

 いくら軍勢で差をつけようが、ゴドウィン程度の男がミカエルに敵うなどとはカタリナは微塵も考えていなかったのだ。言ってみれば、ミカエルはまさに天才なのだ。君主たるべくして生まれてきたといっても過言ではない。

比べて血縁上はミカエルの叔父に当たるとはいえ、今回の事変の黒幕であるゴドウィンという男は、カタリナから見ても才気の欠片も見えぬ退屈な人物であった。

何度か国の祭典の際に顔を合わせたことはあるが、ニヤニヤとした締りの無い顔、脂ののった額や体型といった印象しかない。

付け加えるならば、定期的に催されていた舞踏会などでカタリナは何度かこの男に声をかけられたことがある。先の大臣の言葉を省みても、どうやら自分はあれに気に入られていたらしいと思うと、背筋が凍る。貴族たるものが品格を磨かず色欲に耽ろうとは、愚かにも程がある。それでいて先代の遺志を継いで~などとのたまうのであれば、それこそ先代への冒涜といっても過言ではないだろう。

ミカエルの父親であった先代ロアーヌ候フランツは、これまた名君であった。

十六年前に全世界に災厄をもたらした史上三度目の大災害『死蝕』の後、驚くべき速さでロアーヌを建て直し、世界に先駆けてその情勢を確固たるものへと作り上げた。当時荒廃しきった世界では犯罪も頻発したが、いち早く復興を遂げたロアーヌはその中でも異例の厳格さを誇った国であろう。

 そしてさかのぼること三ヶ月前、突然の名君の崩御にロアーヌ国民が涙した時、その後の即位直後から父親を上回る機転で情勢を持ち直したのが、現ロアーヌ候であるミカエルだった。

 どうしても先代フランツの一本柱に思われていたロアーヌの地は、先代崩御直後は殺伐とした雰囲気に包まれていた。外交情勢も雲行きが怪しくなり始め、宮廷内外共に浮き足立った状態が続いた。

その中で半ば強引に即位をしたのがフランツの息子、ミカエルであった。即位の際にその若すぎる異例さ、摂政を置かぬ無謀さにひと悶着こそあったものの、それを圧し沈めたミカエルはその後の執政の結果を以て周囲に有無を言わさず納得させたのだ。

 今既に国民からは先代に劣らぬ名君の誉れ高く、貴族連盟もミカエルを名実共にロアーヌ候であると認めた。

 だが、やはり納得しない輩はいたのだろう。今回の反乱がいい例だ。ゴドウィン男爵だけならばまだしも、先代から仕えていた大臣までがその謀反に加わろうとは。

 

(・・・仕方のないことなのかな・・・。いつの時代も権力にすがろうとする輩は絶えない・・・。誇りの伴わぬ権力に意味などないというのに・・・)

 

 ため息を一つつくと、カタリナはタロットを集めて一箇所にまとめた。なんだか意気消沈してしまったのでこれ以上続ける気分にはなれなかったのだ。

 

「・・・なんだ、もう終りにしちまうのかい?見てて面白かったんだけどな」

「・・・!!?」

 

 突然、背後から声が聞こえてきた。驚く間もなくカタリナは寄りかかっていた壁をすばやく蹴って反転する。丸腰ではあるものの臨戦態勢をとりながら先ほどまで寄りかかっていた壁をみるが、特に人影は見当たらない。

 

「・・・おいおい、そんなに驚くなよ。こっちだ、こっち」

 

 しかし声は聞こえてくる。疑問符を浮かべながらカタリナがよくよく壁を注視していると、なんと上方に穴が開いており、そこから見知らぬ男が身を乗り出しているではないか。

 

「よっ、別嬪さん。はじめまして。俺はポールっていうんだ」

 

 にこやかに挨拶をする男に面食らいながらも、カタリナはとりあえず臨戦態勢を解いた。どうやら相手も武具は持っていないようだし、どうも穴自体は男が通り抜けられるほどの大きさは無いようだ。

 

「・・・囚人ね。私に何の用かしら?」

 

 言ってから自分も今は囚人であることに気がつくが、この際それには目を瞑ることにして男を正面から睨んだ。すると男は器用にも身を乗り出した状態で肩をすくめながら笑って見せた。

 

「何の用もないさ。ただ、珍しく女の、しかも別嬪さんが地下牢に連れてこられてきたとあっちゃ、興味津々なんでね。一昨日から気がついてはいたんだけれど、顔見知りになりたくて今こうして挨拶に参上したわけ」

 

 軽そうな口調で笑うポール。あまり好きなタイプの人間ではないが、どうやら相手は敵意も持っていないようなので、カタリナはある程度リラックスしながら言葉を返した。ついでに言えば自分がここに入れられてから二日が経っていることが確認できたのも収穫としておこう。

 

「それはどうも。私の名はカタリナ=ラウランよ。さ、ご挨拶は済んだわ。不快だから覗き込むのはやめて頂戴」

 

 腕を組んで相手が引っ込むのを待つが、しかしポールは身を引かなかった。

 

「はは、つれない返事だねぇ。・・・カタリナ嬢といえば、ロアーヌの花たるモニカ姫に仕える美貌の懐刀じゃないか。まさかこんなところでお会いできるとは光栄だね」

 

 ポールの軽口に、しかしカタリナは無言で返す。流石にポールもこれ以上軽口を言う気にはなれないのか、冷や汗を一筋たらすと再び肩をすくめた。先ほどもそうだがつくづく器用な男だ。

 

「・・・OK,わかったよ。俺ってばとことんいい女には縁がないんだな。・・・それはともかく、お宅、あれだろう?ゴドウィン卿の謀反の煽りを喰ったんだろ?」

「!?・・・囚人風情が、いやに情勢に詳しいわね」

 

 まさか一介の囚人にまでこの話が広がっているとは。まだゴドウィン達がこの宮廷で行動を起こしてからは男の言うとおりならば二日しかたっていない。そもそもにしてその時点で既に地下牢にいるはずのこの男が、謀反の黒幕の名前まで知っていること自体がおかしい。

 

「これでもシャバにいたころは、耳は良くってね。噂話はちらほら入って来てたんだよ。謀反の計画なら、結構前からあったみたいだぜ?」

「・・・・・・」

 

 呆れたものだ。

 何に呆れたのかといえば、囚人すら知っているような事実をこの自分がつい数日前まで知らなかったということに、である。それだけ自分が平和にかまけていたことに幾分憤慨したくなるが、今ここでそうしても仕方がない。

 

「ま、心配はいらないって。お宅のところのミカエル候は間違いなく名君だ。ゴドウィン卿では勝てないよ」

「・・・いやに確信しているじゃない・・・?根拠でもあるのかしら?」

 

 確信たっぷりに話すポールに、カタリナは疑問符を投げかける。先ほどより若干その声音を和らげてあげたのは、勿論ミカエルを褒め称えたからに他ならない。なかなかわきまえている男である。

 

「ここにきたのは俺もつい最近なんだが、それまではちょい訳ありで盗賊団員やっててな。この周辺の情勢だの裏話だのはしっかり買っていたのさ。それと照らし合わせるだけでも、勝敗は明らかだし・・・それに」

 

 言葉の途中でポールは視線をカタリナの顔から、足元に置いてあるタロットカードに移した。

 

「さっきまでそいつで戦の先見、やってたろ?その結果は何度繰り返しても、ミカエル候の勝利に他ならなかった」

 

 にやりと笑ってみせるポール。この男、いつから見ていたのだろうか。

 

「・・・ふふ、言うじゃないの。まぁ、私も同じ考えよ」

 

 気を良くしたカタリナが笑顔で答えると、ポールはそれにあわせて再び笑った。

 

「お、やっぱり別嬪さんには笑顔が似合うね・・・ま、ミカエル候には借りがあるからな。俺もミカエル候の勝利を願っているだけさ」

「・・・借り?」

 

 手前の軽口は無視して、ポールのその後の言葉に再び疑問符を浮かべるカタリナ。どう考えても一介の盗賊風情とロアーヌ侯爵であるミカエルには接点が見当たらない。

 

「・・・俺は盗賊団家業に身を落としていたが、一応訳ありってことでな・・・元々は俺もその一団に捕まった被害者ってくちだったのさ。しかし普通ならそんなことは関係なく処罰されるだろう?・・・それをあろう事かミカエル候は兵に命じて俺に事情を問いただし、今の事情を汲んだ上で短期間の拘留刑に止めてくださったんだよ。しがない盗賊団員の言い訳を聞いて、ばっちりそれの裏までとったそうだ。正直信じられない事態だよ。俺は名君ってもんをはじめて実感したね」

 

 あくまでも冗談風味にしゃべるポール。しかしその言葉には嘘偽りの響きが無いことが、なんとなくカタリナにも分かった。

 

「・・・そう。それは貴方も不憫だったわね。事が終われば早々に酌量もあることでしょう」

 

 そういってカタリナは再び地面に座り込んだ。立ちながら上を向いて話すのに疲れたのだ。

 

「ま、ここまで厚遇にしてもらっているんだ。まったり待つさ。・・・とはいえ暇なものはどうしようもなくてな。話し相手に飢えている所に思わぬ別嬪さんの登場とくれば・・・俺の気持ちも分かるだろ?」

 

 今日三度目の肩すくめをみたカタリナは、不覚にもくすくすと笑い出してしまった。

 

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